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カンボジアで中国人旅行者と卓球した話:言葉を超えたスポーツの力

バックパッカーとして東南アジアを巡る旅の途中、僕はカンボジア・シェムリアップで忘れられない出来事を経験した。 相手は中国から来た一人の旅行者。共通の言語は一つもなかった。 それでも、卓球台を挟んだ2時間は、僕にとって旅のハイライトと呼べるほど鮮烈な時間になった。

この記事では、その体験を時系列で振り返りながら、カンボジアで卓球相手を見つけるための実践的な情報も あわせて紹介したい。

ラケットをバックパックに入れた理由

そもそもなぜ旅にラケットを持っていったのか。きっかけは、日本で何年も卓球を続けていた僕が、 旅先でも練習の感覚を失いたくないという単純な思いだった。 シェイクハンドのラケット1本とボール3個をジップロックに入れてバックパックの底に忍ばせた。 重さにして約200グラム。たったこれだけの荷物が、この先の旅を大きく変えることになる。

バンコクからバスで国境を越え、シェムリアップに着いたのは2月の末だった。 アンコールワット観光が目的の街だが、遺跡だけを見て次の街に移動するのはもったいない。 少なくとも3〜4日は滞在するつもりだったから、その間にどこかで卓球ができればと考えていた。

シェムリアップで卓球台を探す日々

到着初日、まずはゲストハウスのフロントに聞いてみた。「この近くに卓球ができる場所はありますか?」 英語で尋ねたが、スタッフは首をかしげるばかり。卓球という単語が通じないのかと思い、 スマートフォンで卓球台の画像を見せると「ああ、ピンポンね!」と笑顔になった。 しかし、「この辺りにはないと思うよ」とのこと。

翌日、旧市場(オールドマーケット)の周辺を散策しながら探してみた。 飲食店の裏手やホテルの中庭に卓球台が置いてあることがあるという情報を事前にネットで読んでいたが、 なかなか見つからない。パブストリート周辺のバーやカフェも何軒か覗いたが、ビリヤード台はあっても卓球台は見当たらなかった。

3日目、少し足を延ばしてシェムリアップ川沿いの公園エリアを歩いた。 すると、王立公園(Royal Gardens)の近くにある広場に、コンクリート製の卓球台が2台設置されているのを発見した。 表面はかなり劣化していてネットも錆びていたが、それでも「台がある」という事実だけで嬉しくなった。 周囲には地元の子どもたちが数人遊んでいたが、卓球をしている人はいなかった。

卓球台を見つけるコツ:
  • ゲストハウスやホステルのスタッフに「ping pong」で通じることが多い
  • 中〜大規模のホテルやリゾートの共用スペースに設置されていることがある
  • 川沿いの公園や学校の敷地内にコンクリート台があることがある
  • Google Mapsで「table tennis」「ping pong」と検索すると情報が出る場合もある

偶然の出会い:中国人旅行者との遭遇

コンクリート台を見つけた日の夕方、僕はラケットとボールを持って再びその広場に向かった。 一人で壁打ちでもしようかと思っていたのだが、台の前に先客がいた。 30代くらいの男性が一人、台の端にスマートフォンを置いて何やら動画を見ていた。 そして驚いたことに、彼の手にもラケットが握られていた。

目が合った瞬間、彼は僕のラケットに気づいて「おっ」という表情をした。 僕が英語で「Do you play?」と聞くと、彼は少し困ったような顔をしてから、 中国語で何か言った。僕には全く理解できなかった。 彼も英語はほとんど話せないようだった。日本語が通じるはずもない。

数秒間の沈黙。しかし、次の瞬間、彼はにっこり笑ってラケットを軽く振るジェスチャーをした。 「やるか?」という意味は明白だった。僕も笑顔で頷いた。 言葉は何一つ通じなかったが、ラケットを持つ者同士、通じ合うものがあった。

共通の言語がなくても、「一緒に打とう」というメッセージはラケット一振りで伝わった。 あの瞬間、言葉の壁が完全に消えたように感じた。

試合開始:ジェスチャーだけのルール確認

まず最初の問題は、ルールをどう決めるかだった。 彼は指を立てて「11」と示し、次にサーブの動作をしてから指を2本立てた。 「11点マッチ、2本交代サーブ」ということだろう。僕は親指を立てて了承した。 たったこれだけのやり取りで、試合のルールが決まった。

コンクリート台の表面はザラザラで、ボールのバウンドは不規則だった。 ネットの高さも正規より少し高い気がしたが、そんなことは問題ではなかった。 彼のサーブは回転が強く、最初の数本は完全に読めなかった。 フォアハンドの振りは速く、明らかに経験者だった。

1ゲーム目は3-11で完敗。彼は申し訳なさそうに笑いながら、ガッツポーズを小さく作った。 僕も笑って拍手した。悔しさはあったが、それ以上に「ちゃんとした相手と打てる」喜びが大きかった。

2ゲーム目、僕は戦術を変えた。彼のフォアハンドが強いのは明らかだったので、 バックサイドにロングサーブを集めてみた。これが功を奏して、中盤まで接戦に持ち込めた。 最終的には9-11で惜敗したが、彼も真剣な表情に変わっていた。 点数はお互いの指で示し合った。間違いがあれば首を横に振って修正する。 それだけで十分だった。

休憩時間のコミュニケーション

3ゲーム終了後、彼は台の横に座り込んで水を飲み始めた。僕もペットボトルを取り出して隣に座った。 カンボジアの夕暮れは美しく、オレンジ色の空がアンコールワットのシルエットの向こうに広がっていた。

彼はスマートフォンを取り出し、翻訳アプリを起動した。中国語を入力して英語に変換し、画面を見せてくれた。 「Where are you from?」——僕は「Japan」と答え、彼は「China, Guangzhou」と自分のスマートフォンに打ち込んだ。 広州から来たのか。卓球が盛んな国から来た人と、こんな場所で打てるとは。

翻訳アプリを介したやり取りはぎこちなかったが、お互いの卓球歴や好きな選手の話になると 一気に盛り上がった。彼が「馬龍(マー・ロン)」と言い、僕が「張本智和」と返すと、 彼は大きく頷いて親指を立てた。卓球選手の名前は万国共通の言語だった。

彼は自分のスマートフォンに保存していた試合動画を見せてくれた。 地元の卓球クラブで撮影されたもので、彼のプレーが映っていた。 かなりの上級者であることが動画からも伝わってきた。 僕も日本の練習場で撮った短い動画を見せると、彼は興味深そうに画面を覗き込んだ。

言葉が通じない相手とのコミュニケーション手段:
  • スマートフォンの翻訳アプリ(Google翻訳のカメラ機能も便利)
  • 卓球選手の名前や大会名は共通言語になる
  • プレー動画の見せ合いは会話のきっかけになる
  • 数字は指で示す(スコアの確認、卓球歴の年数など)
  • 笑顔とジェスチャーで8割は伝わる

後半戦:本気モードの白熱した試合

休憩を挟んで再開した後半は、明らかに空気が変わった。 お互いの手の内がわかってきたことで、戦術的な駆け引きが生まれていた。

4ゲーム目、僕は意を決してフォアハンドドライブを多用する攻撃的なスタイルに切り替えた。 コンクリート台のイレギュラーなバウンドを逆に利用して、低いドライブで攻め立てた。 結果は11-8。初めて1ゲームを取った瞬間、思わず声が出た。 彼も「好!(ハオ)」と言って拍手してくれた。この一言だけは理解できた。

5ゲーム目はデュースにもつれる大接戦になった。 10-10から彼のバックハンドフリックがネットインして10-11。 最後は僕のサーブがわずかにオーバーして10-12で決着がついた。 彼は大きくガッツポーズを作り、僕は悔しさを噛みしめながらも笑顔で握手を求めた。 彼はがっちりと手を握り返してくれた。

その後もさらに数ゲーム続けた。途中で地元の子どもたちが集まってきて、 僕たちの試合を食い入るように見ていた。 彼が子どもの一人にラケットを渡して打たせてあげる場面もあった。 子どもは最初おっかなびっくりだったが、ボールを返せると歓声を上げた。 その笑顔を見て、周囲にいた大人たちも笑い始めた。 卓球台を中心に、小さなコミュニティが自然と生まれていた。

言葉も文化も年齢も違う人間同士が、一つのボールを追いかけて笑い合っている。 この光景を見たとき、スポーツの力というものを心の底から実感した。

別れ際のやり取り

日が完全に沈み、街灯だけが頼りになる頃、僕たちは片付けを始めた。 合計で2時間近く打っていたことになる。 彼は翻訳アプリで「明日もここに来ますか?」と聞いてきた。 残念ながら翌日は早朝にプノンペンへ移動する予定だった。 その旨を伝えると、彼は少し寂しそうな表情を浮かべた。

別れ際、彼はカバンから未使用のボール(ニッタクの3スター)を1つ取り出して僕に渡した。 僕は驚いて受け取ると、彼は「プレゼント」と日本語で言った。 おそらく翻訳アプリで調べたのだろう。 僕はお返しに、バックパックに付けていた日本の小さなお守りキーホルダーを外して彼に渡した。 彼は嬉しそうに受け取って、深く頭を下げた。

最後に一緒に写真を撮り、WeChat(中国のSNS)のIDを交換した。 日本に帰ってからも時々メッセージのやり取りをしている。 翻訳アプリを通じたぎこちないやり取りだが、お互いの試合結果や練習の写真を送り合う関係が続いている。

スポーツが言語の壁を超える瞬間

この体験を通じて、僕はスポーツの持つ力について改めて考えさせられた。 日本語、中国語、英語——どの言語も十分に共有できなかった僕たちが、 卓球という共通のフィールドに立った瞬間、すべてのコミュニケーション障壁が消えた。

サーブの構えを見れば相手の意図がわかる。良いショットには自然と拍手が出る。 悔しい場面では同じように歯を食いしばる。 卓球のルールという共通の「言語」が、僕たちを完全に対等な関係にしてくれた。

旅先でスポーツをすることの意味は、単なる運動不足の解消ではない。 それは、言葉や文化の違いを一瞬で飛び越える魔法のようなものだ。 特に卓球は、ラケット1本とボール1つがあればどこでもできる。 台さえ見つかれば、相手は自然と現れる。 あのシェムリアップの夕暮れの広場で起きたことが、それを証明している。

旅に卓球ラケットを持っていくこと。それはたった200グラムの荷物で、 旅の可能性を無限に広げてくれる最高の投資だと思う。

カンボジアで卓球するための実践ガイド

卓球台が見つかりやすい場所

費用の目安

持っていくと便利なもの

カンボジアの屋外卓球台はコンクリート製で表面が荒いことが多く、ボールの消耗が激しいです。 大切なボールは温存し、練習用のボールを別に用意しておくと良いでしょう。 また、雨季(5〜10月)は突然のスコールで中断されることが頻繁にあります。

この体験が教えてくれたこと

シェムリアップでの出来事から数か月が経った今も、あの夕暮れの記憶は鮮明に残っている。 広州から来た彼との試合は、僕の卓球人生の中で最も特別な試合の一つだ。 技術的に学んだことも多かったが、それ以上に大きかったのは「卓球をやっていて本当によかった」と心から思えたことだ。

日本にいると、練習相手を探すこと自体がハードルに感じることがある。 レベルが合わない、場所が見つからない、時間が合わないなど、理由はいくらでも出てくる。 しかし、カンボジアのボロボロのコンクリート台の前で、言葉も通じない相手とあれだけ楽しめた経験は、 「環境なんて関係ない。卓球を楽しみたいという気持ちさえあれば、それで十分なんだ」ということを教えてくれた。

もしあなたが旅行好きで卓球好きなら、次の旅にはぜひラケットを1本忍ばせてほしい。 きっと、予想もしなかった出会いが待っている。

海外で卓球する3つのメリット:
  • 言葉が通じなくても現地の人と深い交流ができる
  • 旅の思い出が「観光」から「体験」にレベルアップする
  • 日本では出会えないプレースタイルの選手と打てる

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